「神さまのいる書店 まほろばの夏」(三萩せんや)

本好きを魅了して止まない世界

「神さまのいる書店」
(三萩せんや)角川文庫

本好きの高校生・ヨミは、
夏休みのアルバイト先として、
司書教諭から
「まほろば屋書店」を紹介される。
そこは、魂が宿り生きている本
「まほろ本」を扱う、
不思議な書店だった。
ヨミはそこで無愛想な
金髪の青年・
サクヤと出会って…。

こんな設定があったか!?
驚きました。
本作品の肝、「まほろ本」です。
何らかの理由で本に魂が宿り、
犬や猫などの形を
成しているというものです。
本体の本を
頭部や背中に張り付けながら、
書棚から抜け出して
自由に動き回っている。
「まほろばや書店」は
そんな「まほろ本」専門の
古書店なのです。
何とも楽しそうな書店です。

その「まほろ本」の中には、ごく希に
人形(ひとがた)をとるものがあり、
それがサクヤです。つまりサクヤは
一冊の本に宿った魂であり、
実体を持ちません。
姿は見えるけれど、
触れようとするとすり抜ける。
まあ、幽霊みたいなものでしょう。

屈折していて常に憎まれ口をたたき、
ヨミに対して
心ない言葉を投げつけるサクヤ。
嫌な思いをしながらも、
サクヤの本を読んでみたいという
好奇心に駆られるヨミ。
物語はこの二人(一人と一冊?)を軸に、
青春恋愛小説の王道を突き進みます。

ほとんど売れない「まほろ本」を
高い値段で買い取る謎の店主・ナラブ。
筋肉質で物静かな執事・トジ。
読みの親友で作家の卵のフミカ。
そして白装束の少年の姿をした
「まほろ本」の神さま。
こうした登場人物たちが
物語に彩りを添えます。

本には何らかの魂が宿っている。
愛書家なら誰もが漠然と
感じているものではないでしょうか。
それをものの見事に具現化したのが
本作品の「まほろ本」なのです。

ライトノベルといえなくもない
作品なのですが、
50を越えたおじさんの私も
十分に引きつけられました。
おそらくは本(それも
電子書籍ではなく紙の本)が
好きな人間なら誰しもが
同じように本作品の世界に
没入してしまうでしょう。

最後の場面には
素直に感動できました。
結末は予想できたのですが、
ここまでストレートに表現されると
何も言うことはありません。
ぜひお読みください。

もちろん
突っ込み処は多々あります。
しかし、それを差し引いても
本作品の魅力はいささかも
減じるところがありません。
それだけ「まほろ本」の溢れる
「まほろば屋書店」は、
本好きを魅了して
止まない世界なのです。
本の世界の楽しさを
知り始めた中学生に、
ぜひ薦めたい一冊です。

※突っ込み処として、
 主人公・紙山ヨミをはじめとする
 登場人物名が漫画風の
 安直なものであること、
 トラウマを抱えたヨミが
 それを克服する場面が
 描かれていないこと、
 「まほろ本」の由来などに
 まったく踏み込まれていないこと、
 冒頭に登場する司書教諭の老先生が
 最終場面にも現れるものの
 伏線の張りが弱いこと、
 等々あります。
 しかし、それらは
 大きな感動の前では些細なことです。
 単行本ではすでに続編が書かれ、
 来月には第3弾も刊行されるとのこと。
 「まほろ本」や
 「書店にすまう神さま」の秘密が
 そこに書かれてあり、
 三萩せんや 「まほろば屋書店」の
 すばらしい世界が
 さらに広がりを見せていることを
 期待したいと思います。

(2019.8.10)

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